BYシリーズ酵母株のためのゴールドスタンダード完全培地

実験室での微生物の培養には、それぞれの微生物に適した培地が使われます。私たちが使っている出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)の場合、富栄養培地としてYPD(yeast extract, peptone, dextrose)培地が、合成培地・合成完全培地として、SD(synthetic dextrose)培地やSC(synthetic complete)培地が使われています。

この培地の「レシピ」は、以下のような酵母の実験本に書いてあります。

ここで書かれている「合成培地」のレシピはどうやって作られてきたのか・・・私も古い歴史は知りません。

ただ、「合成完全培地には、たぶん増殖に必要な栄養源は全てたっぷり入っていて、炭素源が切れるまでは酵母はハッピーに増殖するのだろう」と楽観的に信じて実験に使い続けてきました。

ところが、「私たちが日常的に使っているBYシリーズ株では、今までの完全培地には足らない栄養素があり、酵母はハッピーに増殖していない」、という論文を見つけてしまいました。

Nutritional requirements of the BY series of Saccharomyces cerevisiae strains for optimum growth.

Hanscho M, Ruckerbauer DE, Chauhan N, Hofbauer HF, Krahulec S, Nidetzky B, Kohlwein SD, Zanghellini J, Natter K. FEMS Yeast Res. 2012 Nov;12(7):796-808. PMID: 22780918

この論文では、BYシリーズがYPDと同じくらいハッピーに増殖できるように合成培地の最適化をおこなっています。既存のレシピではアミノ酸のいくつかとイノシトールの量が足らないようです。これらを補うことにより、増殖速度と最終バイオマス、さらに生存率が飛躍的に向上するようです。

レシピ自体は以前のものと比べてそれほど複雑ではありません(むしろ加えるアミノ酸の数は減っています)。これが、ノックアウトコレクションなどが作らえているBY4741、BY4742などのBYシリーズ株を使うときの「ゴールドスタンダード培地」になるのかもしれません。

余談ですが、上記の論文では酵母の代謝をシミュレーションして、理論的な増殖速度や最終バイオマスを計算し、「完全培地での酵母の増殖には計算では説明できない炭素源以外の増殖の制限因子がある」ことを予想しています。エキサイティングな時代になったものです。

(Visited 1,029 times, 11 visits this week)

Leave a Comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください