酵母の遺伝子ライブラリーあれこれ (2)

ずいぶん間が空いてしまいましたが、「酵母の遺伝子ライブラリーあれこれ」のその2です。学会で「続きを書いてほしい」というリクエストをもらいましたので頑張って書きたいと思います。その1のエントリーはこちらです

前回は、ランダムに作ったゲノムライブラリーのインサートの配列を一つずつ決定し、それぞれがゲノム領域のどこにあるかを決定し、その情報をもとに各クローンをある程度のオーバーラップを持たせてゲノムの全領域をカバーするように並べた、「Tiling collection」について解説しました。

ここからは、Tilling collectionのようにランダムな配列を組み込んで後から配列を決めるのではなく、作る前から組み込むインサートが同定されているライブラリーについて解説したいと思います。これらのライブラリーでは共通してPCRで増幅したインサートを組み込んでいます。PCRでは増幅したいDNA断片に特異的な配列のプライマーを設計しますから、この時点でどういう配列を組み込むかがあらかじめわかっていることになります。

良いライブラリーを作るためには、同定されている遺伝子をできるだけ網羅するようにPCRで増やしてベクターに組み込む必要があり、また組み込みたいインサートがちゃんと組み込まれているか(変異も入っていないか)を確認する作業も必要ですから、作成には相当の労力(とお金)がかかることになります。

ライブラリーの使用目的に応じて組み込まれるインサートやベクターが変わるので、複数種類のライブラリーが存在しています。このエントリーでは、そうやって作られたライブラリーの中で代表的なものについて解説したいと思います(見出しの番号はTiling collectionからの続きになっています)。

ざっくりと分類すると、標的のタンパク質を(そのまま)過剰発現することを目的としたものと、標的のタンパク質を精製して生化学解析に持ち込むための精製タグをつけたものがあります。過剰発現したときに起きる細胞の変化を指標に特定の機能をもつタンパク質を探るのが1の主な用途で、特定の生化学的活性を持つタンパク質を探るのが2の主な用途ということになります。

さらに、標的のタンパク質をネイティブなプロモーターから発現させるものと、誘導可能なプロモーターの制御下から発現させるものがあります。出芽酵母の場合、誘導可能なプロモーターとしては、グルコース培地では抑制されていてガラクトース培地で誘導がかかるGAL1プロモーターがほとんどのケースで使われています。

2. gTOW6000 collection (native promoter, タグ無し, URA3, leu2d)

5751種類の遺伝子(タンパク質コード領域(ORF)+ネイティブな制御領域)が、2µm plasmidという多コピープラスミドに組み込まれています。さらにleu2というマーカー遺伝子があるため、ロイシンのない培地でこのプラスミドは100コピー以上になります。ネイティブな制御領域を持っていることから、プラスミドのコピー数分だけネイティブな発現量からの過剰発現を起こすことができます。前エントリーのTiling collectionに近い特徴を持っていますが、遺伝子が個別にクローンされているところが異なります。このブログの筆者らが作ったコレクションで、プラスミドの全コレクションはNBRP-yeastから入手可能です

3. GST collection(GAL1 promoter, N末端GSTタグ, 2µm plasmid, URA3, leu2d)

5280種類のORFが、glutathione-S-transfrase (GST) との融合タンパク質として、GAL1プロモーターから発現されます。このコンストラクトが多コピープラスミドにクローンされており、さらにleu2dをもつのでロイシンのない培地で非常に高レベルのタンパク質発現を起こすことができます。このコレクションはDharmaconから購入できます(日本の代理店はフナコシ)

4. Movable ORF collection (GAL1 promoter, C末端His6-HA-ProteinAタグ, 2µm plasmid, URA3, Gateway)

5854種類のORFが、His6-HA-Protein Aとの融合タンパク質として、GAL1プロモーターから発現されます。多コピープラスミドにクローンされています。このコレクションの特徴は、Gatewayシステムを使うことで各ORFを別のベクターに一括して移すことができるところにあります(それでmovableと呼ばれている)。これもDharmaconから発売されています(日本の代理店はフナコシ)

以上、酵母(Saccharomyces cerevisiae)の代表的なプラスミドコレクションについて紹介しました。これらのコレクションの作成に用いられているプラスミドの構成などについては、私の(昔の?)ウェブページに解説してあります(出芽酵母のgTOW用プラスミド)。また、上記gTOW6000コレクションの開発秘話(?)も同ページに長文で解説しています(gTOW6000論文)。興味がある方は読んでみてください。

その3に続く(かもしれない)。

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