出芽酵母遺伝子の機能がすべてKnownになる日

突然ですが、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)のゲノムには何種類の遺伝子(タンパク質をコードした領域)があるでしょうか?

大抵の酵母研究者は、「だいたい6000」と答えると思います。「だいたい」とついているのは、正確な数は未だに誰も知らないからです。このあたりの話は、以下のエントリーを参考にしてください。

そうではあるのですが、それでは研究が進まないので、酵母研究者はいろいろな状況証拠から、「これが酵母の中で機能している遺伝子(の候補)だ」というものを決めています。

Saccharomyces Genome Database (SGD)によれば、2019年9月の時点で酵母のゲノム上には、5915のタンパク質をコードした領域(ORF)(注1)があるとされています。これらのうち 5179 が “Verified”、すなわち何らかの機能がわかっているもので、残りの 736 が “Uncharacterized”、すなわち機能未知のORFだということになっています。これらのORFの機能は長年の研究活動の結果明らかになってきたわけです。

トロント大学のTim Hughesは、機能が明らかになった酵母の遺伝子(タンパク質)の数の推移について調べ、面白い予測を立てています。

まず2004年時点(参考文献1)。1995年から2003年までに機能が明らかになっていった遺伝子の数の推移はきれいな直線にのります。

Hughes 2004より

この傾向がそのまま続いたとすると、2007年の4月には6000の遺伝子、すなわち出芽酵母のすべての遺伝子の機能が明らかになると予測できます。

では、実際2007年ではどうなったか? 同じくTim Hughesのグループから発表された論文を見てみます(参考文献2)。タイトルを見るだけで、まだ 1000のUncharacterized ORFがあることがわかるんですが、その論文の図も見てみましょう。

Peña-Castillo & Hughes 2007より

予測とは異なり、2007年時点でUncharacterized Genesが1257もあります。ただ、確かに2003年から2007年にかけてもUncharacterized Genesの数は徐々に減っており、この傾向から「2020年前後にはUncharacterized Genesはゼロになる」、と新たな予測が論文中でなされています。

しかし、上述したように、2020年を目の前にした現在、まだ736の遺伝子がUncharacterizedのまま残されています。

これは酵母研究者にとってはゆゆしき事態、あと4ヶ月で736の遺伝子の機能を決めないと計画が崩れるぞ!

・・・とは言ってもそう簡単な話ではありません。いろんな解析がなされている酵母において機能未知のまま残されている訳ですから。ただ、逆に言えばこれらの遺伝子は宝の山と言うこともできるかもしれません。これらのタンパク質は私たちが今は知らない酵母細胞の大事な機能を担う遺伝子集団かもしれないからです。

注1. 本エントリーでは、遺伝子、タンパク質、ORFを特に区別せず用います。ORF1が含まれる領域を遺伝子1、そこにコードされているタンパク質をタンパク質1というふうに考えます。

参考文献

1. The promise of functional genomics: completing the encyclopedia of a cell. Hughes TR, Robinson MD, Mitsakakis N, Johnston M. Curr Opin Microbiol. 2004 Oct;7(5):546-54. Review.PMID: 15451511

2. Why are there still over 1000 uncharacterized yeast genes? Peña-Castillo L, Hughes TR. Genetics. 2007 May;176(1):7-14. Epub 2007 Apr 15. Review.PMID: 17435240

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