2014-05-222014-05-23 タンパク質合成速度の絶対定量により、細胞のリソース配分の原理が明らかになった。 Quantifying absolute protein synthesis rates reveals principles underlying allocation of cellular resources. Li GW, Burkhardt D, Gross C, Weissman JS. Cell. 2014 Apr 24;157(3):624-35. doi: 10.1016/j.cell.2014.02.033. PMID: 24766808 研究室のセミナーで発表された論文です。 リボソームプロファイリング(mRNAに結合しているリボソームの密度や場所を正確に決める技術)を使って、大腸菌のすべてのタンパク質の合成速度(翻訳速度)を決定しています。 この定量は非常にダイナミックレンジが高く、またこれまでに測られていたタンパク質の存在量とも非常によく一致しました。 私が驚いたのは、タンパク質複合体を作る構成成分の合成速度が、それぞれの構成成分の量比(化学量)とほぼ一致するということでした。バクテリアでは、しばしばタンパク質複合体の構成成分がオペロンを作っていて、1つのmRNAとして転写されるのですが、同じmRNAにコードされた複合体のそれぞれのタンパク質が全く違った合成速度を持っていて、その比が複合体の化学量比と一致するのです(最大10倍の違いがあります)。 このような現象がたくさんのタンパク質複合体で観察されました。つまり、タンパク質複合体の構成成分の量比は、転写ではなく翻訳のレベルで整えられているということです。このような化学量比とタンパク質合成速度の比の一致は、真核細胞の出芽酵母でも見られました。 この「翻訳速度による化学量比の整え」は、おそらくフィードバックなどの特別なメカニズムによるものではなく、翻訳開始の速度やコドンの使用頻度などで遺伝子ことに「最適化」された、遺伝子の配列に刻まれた情報なのでしょう(恐らく翻訳開始だと思います)。 この論文では、その他にToxin-anti Toxinやシグナリング因子の翻訳速度の最適化や、メチオニン合成経路のタンパク質の合成速度の最適化についても書かれています。細胞システムがいかに最適化された遺伝子発現システムを持っているかが伺えます、そしてそれが、翻訳の速度のレベルで行われていることも。 — 2014.5.23 追記(一部本文修正) リボソーム・プロファイリングで決定できるものは、1次的にはタンパク質の合成速度(転写速度=mRNAの量 x 翻訳速度)であり、それをmRNAの量で補正することで翻訳速度になるということに気づきました。 バクテリアのオペロンのような場合には、1つのmRNAからのタンパク質合成速度なので、オペロン上の別々の遺伝子のリボソーム・プロファイリングの結果は、相対的な翻訳速度の違いとして評価できるはずですが、別々のmRNAから発現しているタンパク質の場合には、mRNAの量で補正しない限りは、「翻訳速度」という言葉を使うよりは、「(mRNA量も含めた)タンパク質の合成速度」という言葉を使わなければなりません。 (Visited 2,707 times, 4 visits this week) システムバイオロジー 要チェック論文 論文