次の酵母研究を牽引するのは「進化実験」だ。

ここの所、ある用事のために調べ物をしていてたどり着きつつある結論がある。それは、今後しばらく酵母研究のイノベーションは「進化実験」からもたらされるであろうということだ。

次世代シーケンシングは進化実験を根本的に変えた。次世代シーケンサー以前は、酵母の変異株を取得してもその実体を探ることは容易ではなかった。

表現型に強い影響をあたえる変異箇所が一点(1つの遺伝子)に決まるようであれば、遺伝学的手法でそこにたどり着くことができた。しかし、一箇所以上となればお手上げに近い。ゲノム全体が再編成するようなことが起きる場合には手が出せない。それが従来の遺伝学の限界だったとも言える。

ところが、次世代シーケンサーの普及により、変異体のゲノムをそのまま全部解析することができるようになった。シーケンサーの精度からして、一箇所よりは複数箇所、さらにはゲノム全体の再編成が伴う場合のほうが、より解析がやりやすい。つまり、進化した酵母株のゲノム解析のハードルはなくなった。というよりそこに革命(破壊的イノベーション?)が起きた。

次に、(持続的イノベーションにより)以前よりも深い深度で読み取られた情報の解釈できるようになっている。すなわち、酵母ゲノムのほとんどすべての遺伝子の機能がわかり、それらのつながりが分かるようになった。得られたゲノム情報から、「何が起きているのか?」を予測できる土壌がすでにできているのだ。

そして、進化実験には微生物である酵母ならではのメリットがある。

CRISPR/Cas9 systemが作られてから、遺伝子破壊(あるいは遺伝子機能の改変)が、酵母以外のあらゆる生物で容易に行えるようになった。以前の最大の強みであった、「合成致死」の解析も今や哺乳細胞で行うことができる。むしろ、酵母のSGAよりも手間が少ないかもしれない(コストは別にして)。

だが、進化実験はそうは行かない。進化には「世代」が必要である。単一の集団を大規模に継続的に培養し続けたり、複数の系統(株)を並列で長期間にわたって培養し続けたりする必要がある。前者は哺乳細胞でも不可能ではない(コストは酵母よりも圧倒的にかかるだろう)が、後者はやはり培養スケールが小さく、世代時間が短い微生物でなければ、現在の技術では難しい。実際、小スケールで並列に連続培養ができるシステムも構築されている。

したがって、何らかの摂動条件にさらした酵母を進化させ、その結果を次世代シーケンサーによって解析するということは、現代だから酵母だからできる研究ということになる。(一般的な細胞のモデルとしての大腸菌でも可能であるが、真核細胞のモデルとしては酵母だろう)

私は、酵母を用いて「進化の原理」を対象とした実験をすべきとは思っていない。進化そのものを知ることは、やりたい人にやらせておけば良い。そうではなくて、進化実験を道具・実験技術として用いるのだ。自分が知りたい生命現象の謎を解くための道具として進化実験をつかうのだ。

上記の摂動が生物に与える影響を知るために、生命はどのような方法によって、どのようにシステムをリアレンジすることによって摂動に対応しうるのか、その解をしり、そこから逆に摂動の本質を知る。

これは、正常な状態の細胞のシステムとしての理解が十分に深まっている酵母だから可能なのだ。

2002年のYeast MeetingでMark Johnstonは、「酵母のすべての遺伝子がKnownになった時、酵母研究の黄金期が始まる」と言った。この現状を意図したことはどうかはわからないが、実際に彼の言ったとおりになりつつあると思う。それが最も大きく反映されるのが、進化実験だろうとおもうのだ。

 

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