最近、Twitterのタイムラインに「発現小町」というネタが流れてきました。
「この遺伝子が全然発現していないようなのですがいったいどうなっているのでしょうか」「あ、ここにストップコドンが入っちゃってます。」「ご指摘,ありがとうございました。」
という会話です。もちろん、「発言小町」をもじったジョークなのは間違いないでしょう。
ですが、実際に「発現小町」があったとして、上記の質問が出された時の答えはどうなるでしょうか?
ここで、実は本質的に注意しなければならないことがまずあります。「発現」という言葉の使い方です。従来、「発現」とは「ある形質が表現型に現れている状態」を指します。「形質の発現」という使い方が本来の使い方です。
それがいつの間にか、遺伝子・タンパク質に対して発現という表現が使えるようになりました。そうなるとややこしくなるのが、「遺伝子の発現」と「タンパク質の発現」という表現です。発言者はこれらを区別しているのか、それとも同じと捉えているのか?
少し前からよく使われる「(遺伝子)発現解析」という言葉は、多くの場合、マイクロアレイやRNAseqによる転写産物の解析を意味しています。遺伝子が転写されmRNAにまでなっている状態で「発現」というわけです。タンパク質になっていなくてもよいわけです。
でも質問に対する答えから予測するに、上記の「発現しない」は、明らかに「タンパク質が作られていない」事を意味しているように思います。この場合の「発現」には、転写+翻訳の過程が含まれています。結果として「ストップコドンが入っちゃって」たということは、翻訳の過程がうまく行かなかったということのようです。
実際問題として、標的のタンパク質が作られない場合には、「ストップコドンが入っている」という単純な理由だけではなく無数の理由が考えられます。その際、単純に「発現しない」という言葉で終わらせるのではなく、遺伝子構造は確かめたのか、mRNAまでは作られているのか、作られたタンパク質の検出法は確かなのか、などなどいろいろと確かめなければならないことがあります。
私たちの研究室では、「標的のタンパク質を酵母内で作れるだけ作らせる」という研究を行っていますが、その際にまったく理由はわからないけれども全然作られない(発現しない)タンパク質もたくさんあります。
ですので、単純に「全然発現しないのですがいったいどうなっているのでしょうか?」という質問には、ほとんど答えられないというのが正直な感想です。
「私の作ったプログラムが上手く動かないのですが一体どうなっているのでしょうか?」という(よくある)質問と同じで、
「そんなもん問題を1つずつ切り分けて、1つずつ解決してくしかないよ」
という(よくある)答えが帰ってくるだけでしょう。