2018-12-132018-12-13 酵母ミトコンドリアの(ちゃんとした)タンパク質カタログ Landscape of submitochondrial protein distribution.Vögtle FN, Burkhart JM, Gonczarowska-Jorge H, Kücükköse C, Taskin AA, Kopczynski D, Ahrends R, Mossmann D, Sickmann A, Zahedi RP, Meisinger C. Nat Commun. 2017 Aug 18;8(1):290. doi: 10.1038/s41467-017-00359-0.PMID: 28819139 ミトコンドリアは呼吸を司る細胞小器官です。ミトコンドリアは細胞の模式図ではソーセージのような形で描かれていて、詳細な図ではミトコンドリアが外膜、内膜、マトリクスという内空からなることが描かれています(膜の間にも空隙があります)。 「細胞内小器官といえばミトコンドリア」、というくらい知名度の高い(?)細胞小器官ですから、「ミトコンドリアについてはそりゃーよくわかってるんでしょうよ」と思う人も多いかもしれません。 「じゃあ、ミトコンドリアにあるタンパク質はどんなものがあるの?」と言われると、これが結構難しい。 この細胞内にあるソーセージは、細胞をマイルドに破壊して遠心分離をしてやれば精製することができます。精製できるということは、そこにあるタンパク質を片っ端から調べていけば良いと言うことになります。現代のプロテオーム解析を使えば片っ端から調べること自体は難しいことではない。 問題となるのは、いくら精製してもどうしても「混ざり物」があるということです。以前のエントリーでも書きましたが、細胞内のそれぞれのタンパク質の存在量は100万倍も違います。酵母では、ミトコンドリアで最も多いPor1は、細胞質で最も多いTdh3の1/10程度しか存在していません(Kulak Nat. Method 2014)。 となると、それよりもずっと量の少ないミトコンドリアと混入したTdh3を区別するのがとても難しくなってきます。実際、Tdh3などの発現量の多い解糖系タンパク質は、ミトコンドリアに存在するタンパク質リストにはどうしても出てきてしまいます(Williams, Science 2014など)。もちろん、これらのタンパク質がミトコンドリアでの機能も持っている可能性は捨てきれません。しかし、混入しているものが多数ある場合には、実際にどれがミトコンドリアで機能しているものなのか、したがってミトコンドリアの機能は何なのかわからなくなってしまいます。 この論文では、ミトコンドリアタンパク質カタログを作るために、SILAC (Stable Isotope Labeling by/with Amino acids in Cell culture)法とミトコンドリア分画法を組み合わせ、ミトコンドリアの中でも膜に刺さっているもの、膜表面にくっついているもの、膜間やマトリクスに溶けているものの3つに分類しつつミトコンドリアのタンパク質を同定しました(これに引き続いて、外膜と内膜のタンパク質も区別しています)。 さらに、細胞全体と精製したミトコンドリアに含まれる量の比から、ミトコンドリアだけにあるもの、ミトコンドリアとそれ以外の部分にあるもの(混入も含む)、ミトコンドリアにはないものの3つに分類しました。 この解析を通じて、相当信頼性のおける「ちゃんとしたミトコンドリアのタンパク質カタログ」ができたと言えるでしょう。カタログには986種類のタンパク質が含まれています。酵母には約6000のタンパク質があるので、約16%がミトコンドリアのタンパク質だということになります。 さらに本研究では、「ミトコンドリアに存在するタンパク質を新たに206種類同定した」、とあります。このリストを見ると、これまでミトコンドリア以外の場所で機能していると言われてきたタンパク質のオンパレードです。直感的には、「これはやっぱりただの混入じゃないのか?」と思うわけですが、これらのタンパク質の中にはミトコンドリアの知られざる機能を反映しているものが含まれているのかもしれません。 先ほども書きましたが、質量分析によるプロテオーム解析のつらいところは、それぞれのタンパク質の存在量に大きな差があることだと思います。微量に存在するものほど同定が難しい。こういった細胞内の画分にあるものとなるとなおさらです。別のアプローチとして、蛍光タンパク質と蛍光顕微鏡を使った局在の観察があります(以前のエントリーで紹介したYeastRGBなど)。遺伝子を破壊したときにミトコンドリアの機能欠損するか、というのもヒントになります(Stefely Nat.Biotech. 2016など)。また、情報学的な方法でタンパク質の細胞内局在を予測することもできます。最近話題のディープラーニングを使った予測器も開発されています(DeepLoc-1.0)。こういった様々な解析結果を組み合わせることで、いつの日かミトコンドリアに限らず細胞内のタンパク質の局在の完全なマップができあがることを期待したいです。 最後に、どうでもいい話ですが、少し前から「landscape」というタイトルがは流行ってます。大規模解析をして全体像が見えたけど、それで何がわかったのか具体的に言い切れない場合にこういうタイトルがつけられることが多い気がします。 Share on FacebookTweet(Visited 1,754 times, 5 visits this week) システムバイオロジー テクノロジー 大規模解析 論文 酵母