「酵母研究ルネッサンス2016」を行いました

2016年11月29日に東京大学先端科学技術研究センターで「酵母研究ルネッサンス2016」を行いました(世話人:吉田知史(群馬大)・守屋央朗(岡山大)・河野恵子(名市大)・谷内江望(東大))。

大隅先生のノーベル賞受賞を受けて、酵母を研究対象としている若手のPI、あるいはこれからPIとなる研究者による「酵母研究への夢」を語る研究会です。

午後一杯酵母づくしの発表会。とても濃厚で有意義なものでした。夕方からは屋外でのバーベキュー!寒かったけど楽しかった!次回は関西でやる・・・かもしれません。


始めに 吉田知史(群馬大)

セッション1 酵母細胞生物学の復権

  • 河野恵子(名市大)「酵母で明らかにする、新しい老化のメカニズム」
  • 齋藤成昭(久留米大) 「酵母はメタボを救うか?~低グルコースストレスに対する細胞応答メカニズム~」
  • 神唯(ミシガン大) 「細胞周期、次の主役はオルガネラ」
  • 畠山理広(フリブール大)「細胞のセンサーを見つけたい」
  • 佐藤健 (東大)「酵母をいったんバラして組み立て直します 〜再構成して理解する小胞輸送〜」
  • 阿部文快(青学大)「物理計測の窓からのぞく細胞内の様子 〜酵母生物学との融合を目指して」
  • 飯田哲史 (東大) 「酵母からはじめるゲノム修復研究」
  • 加納純子(阪大)   「分裂酵母のサブテロメア全破壊から見えてきた染色体維持システム」

セッション2 酵母を用いた新技術

  • 谷内江望(東大)「最強のプロトタイピングツールとしての酵母」
  • 川島茂裕(東大)「Developing fission yeast for chemical biology」
  • 増本博司(長崎大)「CRISPR/Transposon gene integration(CRITGI)による染色体へのプラスミド導入法の確立」
  • 紀藤圭治(明治大)「MSを使って様々な視点から酵母のプロテオームを観察する」
  • 守屋央朗(岡山大)「そのタンパク質、どれだけ過剰発現できますか? 〜酵母じゃなきゃ言えないこと〜」

セッション3 酵母研究 次の20年 (話題提起 守屋央朗)

「酵母研究ルネッサンス2016」参加者の皆さん

「酵母研究ルネッサンス2016」参加者の皆さん

生命システムの美

Budding yeast cell cycle model

Yeast genome and proteome

Yeast dosage sensitive genes

あなたがやっているのが分子生物学かシステム生物学かすぐに見分けられる質問

以前のエントリー、「「分子生物学」とはどんな学問分野なのか(システム生物学との対比として)?」に関連して。

ふと思いつきました。あなたがやっているのが分子生物学かシステム生物学かすぐに見分けられる質問です。

 

「あなたがある実験をしました。すると、まったく機能の分からない遺伝子/タンパク質がでてきました。あなたはこの時嬉しいですか、嬉しくないですか?」

 

前者ならあなたは分子生物学をやっています。後者ならあなたはシステム生物学をやっています。

 

「過剰発現」で最も引用されている論文

覚書です。

「過剰発現」で最も引用されている論文はどんなものでしょうか? Google Scholarで検索したトップファイブを以下にリストします。 上位3位が、がんに関係するもの。がんで見られる特定のタンパク質の過剰発現で、特にがんの病態を決定する物が見られます。薬剤耐性、酸素欠乏に伴う血管新生、アポトーシスの回避など。4位と5位は人為的な過剰発現による植物の操作です。特定のタンパク質を過剰発現し、塩耐性と低温帯性を付加しています。基本的には、過剰発現は、がんで見られる特殊な状態、あるいは人的操作により引き起こされる状態と捉えられる事がわかります。

Cole SP, Bhardwaj G, Gerlach JH, Mackie JE, Grant CE, Almquist KC, Stewart AJ, Kurz EU, Duncan AM, Deeley RG., Overexpression of a transporter gene in a multidrug-resistant human lung cancer cell line., Science. 1992 Dec 4;258(5088):1650-4. Web of Science: 2633

Zhong H, De Marzo AM, Laughner E, Lim M, Hilton DA, Zagzag D, Buechler P, Isaacs WB, Semenza GL, Simons JW., Overexpression of hypoxia-inducible factor 1alpha in common human cancers and their metastases., Cancer Res. 1999 Nov 15;59(22):5830-5. Web of Science: 1509

Martin SJ, Reutelingsperger CP, McGahon AJ, Rader JA, van Schie RC, LaFace DM, Green DR., Early redistribution of plasma membrane phosphatidylserine is a general feature of apoptosis regardless of the initiating stimulus: inhibition by overexpression of Bcl-2 and Abl., J Exp Med. 1995 Nov 1;182(5):1545-56. Web of Science: 2119

Apse MP, Aharon GS, Snedden WA, Blumwald E., Salt tolerance conferred by overexpression of a vacuolar Na+/H+ antiport in Arabidopsis., Science. 1999 Aug 20;285(5431):1256-8. Web of Science: 951

Jaglo-Ottosen KR, Gilmour SJ, Zarka DG, Schabenberger O, Thomashow MF., Arabidopsis CBF1 overexpression induces COR genes and enhances freezing tolerance., Science. 1998 Apr 3;280(5360):104-6. Web of Science: 882

酵母研究ルネッサンス2013メモ

2013年の12月の分子生物学会で、酵母研究ルネッサンスというワークショップをやりました(その前日には、前夜祭を岡山でやりました)。

ワークショップの本番ではパネルディスカッションがあり、酵母を使った研究のメリットやデメリットなどを討論しました。その当時のメモ、公開していなかったので公開させていただきます。

ちなみにモデル生物を表した素晴らしいイラストは九州大学の岡田悟さんによるものです。

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大隅先生のノーベル賞受賞により、「酵母研究ルネッサンス2016」が起きそうな予感がしています。

 

遺伝子発現レベルが増殖に及ぼす効果の大規模並列調査

Massively Parallel Interrogation of the Effects of Gene Expression Levels on Fitness.

Keren L, Hausser J, Lotan-Pompan M, Vainberg Slutskin I, Alisar H, Kaminski S, Weinberger A, Alon U, Milo R, Segal E. Cell. 2016 Aug 25;166(5):1282-1294.e18. doi:10.1016/j.cell.2016.07.024. Epub 2016 Aug 18.PMID:27545349

「遺伝子(タンパク質)の発現量をどれだけ上げたら細胞は死ぬのか?」

これは私が自分の研究を紹介する時によく使うフレーズです。

その背景にあるのは、「ロバストネス(頑健性)」という概念で、生命システムで使われている遺伝子発現などのパラメータが多少変動しても生命システムは安定に維持される(といわれている)というものです。これを実験的に調べることを可能にした「遺伝子つなひき(gTOW)法」という実験手法を端的にいうと、上記のフレーズになるのです。

ですが、本当は変動が知りたいわけですから、上げるだけではなく下げることもしたい。しかも、上げたり下げたりした時に生命システムがどういう応答をするのかもちゃんと捉えたい。でも、それは現代の技術では難しいから(あるいはとても大変な実験が必要だから)、「どれだけ上げたら細胞が死ぬか?」という、ある意味妥協をしたわけです。

ただ、言い訳をさせて頂くと、gTOW法はそれでも結構知恵を絞って作ったものですし、非常に手間の少ない一回の実験で対象としている遺伝子の発現の上限が測れるという大きなメリットがあるのです。そのトリックは「酵母に決めさせる」ということなのですが・・・。

話がそれましたが、その「上げたり下げたり・・・その時システムがどう応答するか」をやってしまったのがこの論文です。

正直、この論文を読んだ時、「うわ〜これがやりたかったんだよな〜」と思いました。(ですがしっかり論文を読むと、「うわ〜こんな手間のかかることやりたくね〜」とも思うわけですが・・・。)

この論文で著者らがやったことを解説します。

上でも書いたとおり、「遺伝子発現をどれだけ変動させたら細胞の適応性(平たく言うと増殖)に影響が出るか?」ということを、上限下限だけではなく、連続的に調べたのです。

それをどうやって達成したか?

標的の81種類の遺伝子のプロモーターを、130種類の発現強度の違う人工プロモーターで置き換えました。そして、それぞれのプロモーターを持つ株の適応度をそれぞれのプロモーターを持つ酵母株を競合培養させ、プロモーター部位に組み込んだバーコードを次世代シーケンサーで読むことで算出しました。

データ、とてもかっこいいです。

通常の発現量からどれくらい隔たったら適応度が落ちるか(増殖が悪くなるか)、それが遺伝子ごとに出てくる。さらに遺伝子の機能や特性によってその「適応度カーブ」の形が違う。グルコースの培地では遺伝子発現は最適化されているけれど、ガラクトースの培地では最適化がなされていない。最適な発現量の幅が小さな遺伝子は遺伝子発現のノイズが小さいなどなど。

まあ実際、他の実験でも示唆されていたことではあります(と言うか私たちの論文でも同じこと言ってるんだから引用しろよ)。が、それが「発現可能変動幅のグラフ」として見せられるインパクトは非常に高い。

ほんと、「これがやりたかったんだよな〜」とは思うわけですが、競合培養とバーコードを読むことによる適応度の計算はいいとして、1つの遺伝子のプロモーターを130種類に変えた株をつくるというのは、ちょっとやっぱりとんでもなく大変な実験だと思うわけです。

ですが、「遺伝子発現の変動幅を調べる」という、「それやって何がわかるの?」といわれてしまいそうな、背景にロバストネス解析の概念がある実験を、相当な研究資金と労力を持ってやり遂げた(まだ81遺伝子しかやってないですが)、ということに私は感動を覚えました。

その一方で、私がやっている実験はこの実験と概念的にはまったく同じで、だけどももっと先行した論文を出しており、見つかってきたことに対しても先行してると思っていたわけなのに、引用されていないということに力不足を感じながら、もっと頑張ろうと思ったわけなのです。

大隅先生ノーベル賞受賞記念、「酵母 vs ウーパールーパースライドを公開します。

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昨年の講義の補講で、講義を分担しているS先生と「酵母 vs ウーパールーパー」というプレゼンバトルをやりました。

その時に、私は酵母研究者代表として戦い、(プレゼンの内容ではなく)ウーパールーパーの可愛さに破れたのですが、その時に使ったスライドを紹介します。

プレゼンバトル酵母バージョン(PDF 1.9MB)

酵母研究がノーベル賞受賞に繋がった例を見せたのですが、まさか次の年に予言(?)が実現するとは!

若干ふざけたスライドが入っていますが、まあこの機会ということでお許し下さい。

制限酵素のイタリック表記は必要ない

このブログ、自分の覚書のためにも書くことにしています。読者の皆さんにとっては、「え!?そんなことも知らなかったの?」とか「は?それが何か?」と思われる内容もあるかもしれません。

でも、私が長年知らなかった(あるいは忘れていたこと)をウェブ上に記事として示すことで、私と同じように発見する人もいるかもしれませんので。

 

制限酵素の表記法(nomenclature)について、私は指導教官に「最初の三文字はイタリック体、後ろはブロック体で書くように」と教わりました。例えば、EcoRI、HindIIIなど。これは、最初の三文字が制限酵素が得られた生物の学名から来ているからです。学名はイタリックで表記するという決まりがあるので、そのようになっています。この手の説明は、「制限酵素 イタリック」でGoogleとすぐに見つかります。

nomenclatureについては、「知らないと素人だと思われる」ところがあり、論文を書くときにも結構気をつけて書くようにする必要があります。一方、論文をレビュー(査読)する立場になると、nomenclatureがちゃんとしていないと「基本ができてない」と考えてしまいがちです。

で、最近レビューをしていて、制限酵素の表記がイタリックになっていないものに出会いました。それで、「表記がちゃんとしてない」と指摘する前にまずは現在の標準を調べてみました。

ちゃちゃっとサーベイしてみつけたのが以下の論文です。

A nomenclature for restriction enzymes, DNA methyltransferases, homing endonucleases and their genes.

Roberts RJ, Belfort M, Bestor T, Bhagwat AS, Bickle TA, Bitinaite J, Blumenthal RM, Degtyarev SKh, Dryden DT, Dybvig K, Firman K, Gromova ES, Gumport RI, Halford SE, Hattman S, Heitman J, Hornby DP, Janulaitis A, Jeltsch A, Josephsen J, Kiss A, Klaenhammer TR, Kobayashi I, Kong H, Krüger DH, Lacks S, Marinus MG, Miyahara M, Morgan RD, Murray NE, Nagaraja V, Piekarowicz A, Pingoud A, Raleigh E, Rao DN, Reich N, Repin VE, Selker EU, Shaw PC, Stein DC, Stoddard BL, Szybalski W, Trautner TA, Van Etten JL, Vitor JM, Wilson GG, Xu SY.

Nucleic Acids Res. 2003 Apr 1;31(7):1805-12. PMID:12654995

 

制限酵素などの酵素のnomenclatureの取り決めについて書いた論文です。ここに、「Italics will no longer be used for the first three‐letter acronym of the REase or MTase name.」とあります。

なんてことでしょう!! 今から10年以上前に、「もうイタリックは使わない」って決まってたなんて!!

「イタリックにしなさい」なんて指摘してたら逆に恥を書くところでした。情報は常にアップデートが必要ですね、という話でした。

 

解説記事「細胞のタンパク質発現のリソース配分とキャパシティ」を化学と生物に書きました。

化学と生物

 

「細胞のタンパク質発現のリソース配分とキャパシティ」という解説を化学と生物2016年8月号に書きました。

内容的には、過剰発現の定量的側面で書いたことをより噛み砕いた感じです(噛み砕きすぎという話もありますが・・・)。

タンパク質の過剰発現が引き起こす細胞増殖のメカニズムを、タンパク質発現のリソース配分・キャパシティやロバストネスといった概念とともに解説しています。

 

濃度依存的な液相分離はタンパク質の発現上昇にともなう毒性の原因となる

A Concentration-Dependent Liquid Phase Separation Can Cause Toxicity upon Increased Protein Expression.

Bolognesi B, Lorenzo Gotor N, Dhar R, Cirillo D, Baldrighi M, Tartaglia GG, Lehner B. Cell Rep. 2016 Jun 28;16(1):222-31. doi:10.1016/j.celrep.2016.05.076. Epub 2016 Jun 16. PMID:27320918

以前、過剰発現が引き起こす細胞増殖の阻害に関するエントリーに対して、TM氏から「stress granuleのような今流行りのliquid-liquid phase separation(液-液 相分離)が、構成因子の高発現でectopic(異所的に)に引き起こされるようなケースはどうでしょう?」というコメントを頂きました。

正直に申し上げましょう、わたくし、「液-液 相分離」というものがこの時何か知りませんでした。それで、ちょっと調べて(それでもいまいちピンとこなかった)、適当にコメントを返しました。

今回、まさにTM氏の予言(?)通りの論文が発表されました。「Mip6の過剰発現は、液-液 相分離によりGranule(顆粒)の形成を引き起こし、これが細胞増殖を阻害する」というものです。そして、これがタンパク質過剰による増殖阻害の原理の一つだろうと言っています。私たちの2013年の論文のデータ使われてちょっと嬉しいです。

「 タンパク質過剰による毒性マニア」の私には、見過ごすことができない内容です。ということで、関連論文を読みつつ、TM氏にも周辺情報を教えていただき情報を整理しました。

Stress granuleやP-bodyと言われている細胞内顆粒は、タンパク質の凝集体ではなく、形が柔軟に変わり周辺との分子の入れ替わりが盛んであるという「液体」の性質を持っています。これらの顆粒は、ミトコンドリアやペルオキシソームなどのオルガネラ(細胞小器官)に匹敵するサイズを持っていて、膜で隔てられおらず、条件に応じてダイナミックに形成され消失します。

この形成の原理は「液−液 相分離」です。このGranuleは、RNA(mRNA)とRNA結合タンパク質がコアになっていて、それに多数の因子が結合しているようです。タンパク質とRNAの塊が、液体の性質を残しつつ細胞質とは分離された構造を作る(液−液 相分離)、とても面白い現象だと思います。RNAとネバネバの性質を持つタンパク質どうしが集まって油滴のように分離した構造を作るというイメージでしょうか。

一方で、これは新しい概念のようですが、実は、高校の生物学で習う細胞小器官にも液−液 相分離によって作られているものがあります。それは、核小体と中心体です。膜で隔てられていないのにどうやって構造を作っているのか? その秘密が液−液 相分離によってできる構造だったのです。私自身もこの2つの構造がどうやって作られるのかと思っていたのですが、液−液相分離の話を聞いてはじめて納得がいきました。

TM氏の言葉を借りれば、液−液 相分離による細胞内顆粒の研究は、「ここ十年で最大のホットトピックの一つ」だということです。近年、Cell誌などに多数の論文が発表されています。今後もいろいろと面白い話が出てきそうです。

このエントリー作成あたっていろいろ教えてくださったTM氏(個人的にとても仲良くさせていただいている東京大学の先生です)に感謝致します。