技術としてのプレゼンテーション

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昨年4月に生化学若手の会(中四国支部)のメンバーの方に向けて行ったプレゼンの資料(PDFです。

技術としてのプレゼンテーション(PDF 1.8MB)

特に、2,プレゼンの極意(スライド)、3.プレゼンの極意(発表)、4.データをプレゼンするとは? のうち、「わかりやすさ・かっこよさ・発表しやすさ」に絞った話をしました。

ここに書いてあることがいつも自分で実現できているわけではないことを断っておきます。

 

エネルギーが制限された状態では細胞質が固くなる。

A pH-driven transition of the cytoplasm from a fluid- to a solid-like state promotes entry into dormancy.

Munder MC, Midtvedt D, Franzmann T, Nüske E, Otto O, Herbig M, Ulbricht E, Müller P, Taubenberger A, Maharana S, Malinovska L, Richter D, Guck J, Zaburdaev V, Alberti S. Elife. 2016 Mar 22;5. pii: e09347. doi: 10.7554/eLife.09347. PMID:27003292

A glucose-starvation response regulates the diffusion of macromolecules.

Joyner RP, Tang JH, Helenius J, Dultz E, Brune C, Holt LJ, Huet S, Müller DJ, Weis K. Elife. 2016 Mar 22;5. pii: e09376. doi: 10.7554/eLife.09376. PMID:27003290

「細胞に対するイメージ」をガラッと変えてしまう研究というのはこういうのを言うのでしょう。こういう論文を読むと、とても興奮するとともに、今までの自分の知識を否定されたようで、「ナンテコッタイ!」と思わざるを得ません。

上記の2つの研究では、栄養が制限された状態では、通常の私達の細胞質の流動的なイメージとはまったく異なる、細胞質の物質の運動が制限された「固体のような」状態になる事を報告しています。

この細胞質の固体化現象は、基本的には栄養源(グルコース)を制限したり、エネルギー合成を制限したり、pHを下げたり、細胞のサイズを縮めたりすることで起きます。本質的には細胞のサイズが縮んで「分子の混み合いが高くなること」に起因しているようです。

これらの研究では、細胞内の分子の動きの観察で同じ手法が使われているのですが、こちらの細菌での研究が端緒のようです。この研究では代謝によって供給されるエネルギーのない状態では、細菌の細胞質での物質移動が著しく制限され「Glass-like」な状態になると言っています。

必見なのはこれらの論文で示されている動画です。条件を変えると細胞内の分子の動きが制限されるのがよくわかります。

さらに、びっくり仰天なムービーが!!

細胞質固体化条件では、酵母の細胞壁を取り除いても細胞壁があるときと同じ形のまま維持されてる!!

前者の論文では長細い分裂酵母の細胞壁を取り除きますが、pHが低い条件では細胞壁のないスフェロプラストがそのまま長細い形を維持します(Video 4)。私たちの常識(通常のpH条件)では、細胞壁がなくなったら細胞は丸くなるはずなのにぃ!

後者の論文では、意地でももともと丸い出芽酵母でやりたかったのでしょう。わざわざフェロモンでシュム―という長細い細胞を作られておいて同じ実験をしています。

これらの動画だけでも見る価値あります・・・というか動画だけ見たら十分かも。まさに百聞は一見しかず。

少し野蛮な喩えとしては、卵の殻を除いたらぷるんと丸くなるはずの中身が、タンパク質が変性しているわけでもないのに、ゆでたまごのように形を変えない状態になっているという感じでしょうか。

さてこの動きが制限される意義なのですが、前者の論文では動きが制限された状態では巨大なタンパク質の複合体ができる事を示しています。さらに、栄養が制限された状態で生き残るためにこの固体化ータンパク質の複合体形成が必要なのだろうと言っています。

さて、最後にちょっと気になるのは、この細胞質の固体化ー細胞の休眠状態が、それこそ「オレンジジュース程度の」pHの低下で誘導されるということです。休眠状態というのは、いわゆる「胞子」のような状態。・・・どこかで聞いた現象です。筆者らは酵母の他に細胞性粘菌の細胞でも同じ現象を見つけています。哺乳類の細胞のように大きな細胞ではこういう現象は見られていないようですが。こういう状態に置かれた時に、特定の遺伝子が発現するーそれが例の現象の本質だったりするのかもしれないと思ったり。

改変型GFPはウエスタンでの検出でも優れている?

よくわからない実験結果がでたのでここにアップします。

これまでずっとyEGFPという酵母のコドンに最適化したEGFP(enhanced GFP)を使ってきたのですが、最近さらにフォールディングが早いGFPを使い始めました(このエントリーでは”modified GFP”とします)。

私の研究室ではGFPをRocheの抗体(11814460001)を使ってウエスタンブロッティングで検出しています。ちなみにこの抗体は知り合いの研究者の方に教えていただいたのですが、二種類のモノクローナル抗体を混ぜたもので、少々お高いですが検出感度と特異性も高いのでかなり「使える」抗体だと思っています。なお、これらのモノクローナル抗体のエピトープがどこなのかは見つけられませんでした。

modified GFPには複数のアミノ酸の置換があるので、エピトープに変異が入っていて抗体で検出できない可能性もあります。そこで、modified GFPをがちゃんとこの抗体で検出されるのかを確かめるために、この抗体でウエスタンブロッティングをしてyEGFPとの検出度合いを比較しました。

すると予想外に、yEGFPの方はなんかボワッとしたバンドで、modified GFPの方はシャープなバンドとして検出されました(下図)。

Western blotting of GFPs

Rocheの抗体によるyEGFPとmodified GFPの検出:バンドの濃さに違いがあります。

 

なんでこんな違いが出たのでしょうか?

1)modified GFPに入っているアミノ酸置換によってモノクローナル抗体に対する親和性が上がった、2)SDS-PAGEで電気泳動しているとはいえGFPが何らかの構造をとっていてmodified GFPの方が抗体がエピトープにアクセスしやすい、などということが考えられるのかなと思います。その他何かおわかりになる方がいらしたらコメントを頂ければ嬉しいです。

まあ、使う側としてはmodified GFPの方がより良く検出されているしバンドがシャープなので、「今後の実験は全部modified GFPを使うぜ!」でいいのかもしれません。

ですが、特にウエスタンブロッティングでGFPを定量したいと思った時には、GFPの種類によってこういう違いが出るということを注意しないといけませんね。

 

遺伝子が発現しない?

最近、Twitterのタイムラインに「発現小町」というネタが流れてきました。

「この遺伝子が全然発現していないようなのですがいったいどうなっているのでしょうか」「あ、ここにストップコドンが入っちゃってます。」「ご指摘,ありがとうございました。」

という会話です。もちろん、「発言小町」をもじったジョークなのは間違いないでしょう。

ですが、実際に「発現小町」があったとして、上記の質問が出された時の答えはどうなるでしょうか?

ここで、実は本質的に注意しなければならないことがまずあります。「発現」という言葉の使い方です。従来、「発現」とは「ある形質が表現型に現れている状態」を指します。「形質の発現」という使い方が本来の使い方です。

それがいつの間にか、遺伝子・タンパク質に対して発現という表現が使えるようになりました。そうなるとややこしくなるのが、「遺伝子の発現」と「タンパク質の発現」という表現です。発言者はこれらを区別しているのか、それとも同じと捉えているのか?

少し前からよく使われる「(遺伝子)発現解析」という言葉は、多くの場合、マイクロアレイやRNAseqによる転写産物の解析を意味しています。遺伝子が転写されmRNAにまでなっている状態で「発現」というわけです。タンパク質になっていなくてもよいわけです。

でも質問に対する答えから予測するに、上記の「発現しない」は、明らかに「タンパク質が作られていない」事を意味しているように思います。この場合の「発現」には、転写+翻訳の過程が含まれています。結果として「ストップコドンが入っちゃって」たということは、翻訳の過程がうまく行かなかったということのようです。

実際問題として、標的のタンパク質が作られない場合には、「ストップコドンが入っている」という単純な理由だけではなく無数の理由が考えられます。その際、単純に「発現しない」という言葉で終わらせるのではなく、遺伝子構造は確かめたのか、mRNAまでは作られているのか、作られたタンパク質の検出法は確かなのか、などなどいろいろと確かめなければならないことがあります。

私たちの研究室では、「標的のタンパク質を酵母内で作れるだけ作らせる」という研究を行っていますが、その際にまったく理由はわからないけれども全然作られない(発現しない)タンパク質もたくさんあります。

ですので、単純に「全然発現しないのですがいったいどうなっているのでしょうか?」という質問には、ほとんど答えられないというのが正直な感想です。

「私の作ったプログラムが上手く動かないのですが一体どうなっているのでしょうか?」という(よくある)質問と同じで、

「そんなもん問題を1つずつ切り分けて、1つずつ解決してくしかないよ」

という(よくある)答えが帰ってくるだけでしょう。

 

次の酵母研究を牽引するのは「進化実験」だ。

ここの所、ある用事のために調べ物をしていてたどり着きつつある結論がある。それは、今後しばらく酵母研究のイノベーションは「進化実験」からもたらされるであろうということだ。

次世代シーケンシングは進化実験を根本的に変えた。次世代シーケンサー以前は、酵母の変異株を取得してもその実体を探ることは容易ではなかった。

表現型に強い影響をあたえる変異箇所が一点(1つの遺伝子)に決まるようであれば、遺伝学的手法でそこにたどり着くことができた。しかし、一箇所以上となればお手上げに近い。ゲノム全体が再編成するようなことが起きる場合には手が出せない。それが従来の遺伝学の限界だったとも言える。

ところが、次世代シーケンサーの普及により、変異体のゲノムをそのまま全部解析することができるようになった。シーケンサーの精度からして、一箇所よりは複数箇所、さらにはゲノム全体の再編成が伴う場合のほうが、より解析がやりやすい。つまり、進化した酵母株のゲノム解析のハードルはなくなった。というよりそこに革命(破壊的イノベーション?)が起きた。

次に、(持続的イノベーションにより)以前よりも深い深度で読み取られた情報の解釈できるようになっている。すなわち、酵母ゲノムのほとんどすべての遺伝子の機能がわかり、それらのつながりが分かるようになった。得られたゲノム情報から、「何が起きているのか?」を予測できる土壌がすでにできているのだ。

そして、進化実験には微生物である酵母ならではのメリットがある。

CRISPR/Cas9 systemが作られてから、遺伝子破壊(あるいは遺伝子機能の改変)が、酵母以外のあらゆる生物で容易に行えるようになった。以前の最大の強みであった、「合成致死」の解析も今や哺乳細胞で行うことができる。むしろ、酵母のSGAよりも手間が少ないかもしれない(コストは別にして)。

だが、進化実験はそうは行かない。進化には「世代」が必要である。単一の集団を大規模に継続的に培養し続けたり、複数の系統(株)を並列で長期間にわたって培養し続けたりする必要がある。前者は哺乳細胞でも不可能ではない(コストは酵母よりも圧倒的にかかるだろう)が、後者はやはり培養スケールが小さく、世代時間が短い微生物でなければ、現在の技術では難しい。実際、小スケールで並列に連続培養ができるシステムも構築されている。

したがって、何らかの摂動条件にさらした酵母を進化させ、その結果を次世代シーケンサーによって解析するということは、現代だから酵母だからできる研究ということになる。(一般的な細胞のモデルとしての大腸菌でも可能であるが、真核細胞のモデルとしては酵母だろう)

私は、酵母を用いて「進化の原理」を対象とした実験をすべきとは思っていない。進化そのものを知ることは、やりたい人にやらせておけば良い。そうではなくて、進化実験を道具・実験技術として用いるのだ。自分が知りたい生命現象の謎を解くための道具として進化実験をつかうのだ。

上記の摂動が生物に与える影響を知るために、生命はどのような方法によって、どのようにシステムをリアレンジすることによって摂動に対応しうるのか、その解をしり、そこから逆に摂動の本質を知る。

これは、正常な状態の細胞のシステムとしての理解が十分に深まっている酵母だから可能なのだ。

2002年のYeast MeetingでMark Johnstonは、「酵母のすべての遺伝子がKnownになった時、酵母研究の黄金期が始まる」と言った。この現状を意図したことはどうかはわからないが、実際に彼の言ったとおりになりつつあると思う。それが最も大きく反映されるのが、進化実験だろうとおもうのだ。

 

遺伝子の必須性は細胞の進化可能性にリンクした定量的特性である

Gene Essentiality Is a Quantitative Property Linked to Cellular Evolvability.

Liu G, Yong MY, Yurieva M, Srinivasan KG, Liu J, Lim JS, Poidinger M, Wright GD, Zolezzi F, Choi H, Pavelka N, Rancati G.

Cell. 2015 Dec 3;163(6):1388-99. doi: 10.1016/j.cell.2015.10.069. Epub 2015 Nov 25. PMID:26627736

遺伝子を破壊した時に、その遺伝子を持つ生物が生存できない時、その遺伝子は「必須(essential)である」と言います。

出芽酵母では2002年にすべての遺伝子の破壊株が調べられて、全体の18%(約1000の遺伝子)が必須であるとされました。

遺伝子が必須かどうかは、基本的には破壊株が取得できないことで判別します。酵母の場合には四分子(テトラド)解析ができるので、野生型なら生えてくるはずの4つの胞子のうち、標的の遺伝子が破壊された染色体をもつ胞子が生えてこなければ、その遺伝子は必須であると判断されます。

余談ですが、必須性の意味については昔から私なりに考えていることがあり、HPにエントリーを書いたことがあります。

さて、今回の論文なのですが、この「必須性」の定義にチャレンジした論文と言えます。必須と分類されている1106の遺伝子について、もう一度自分たちで破壊株を作り直し、破壊株が生えてこないか(本当に必須か)をもう一度精査に検証しました。

3ステップによる検証により、990は破壊した時に細胞の増殖が見られない「真の必須遺伝子」であることがわかり、88は壊すと「著しく増殖は悪いが増えることができ、かつ破壊株の増殖速度が一定でない」という性質を持っていて、これまでの必須の定義に当てはまらないことがわかりました。

ちなみに、「壊したら増殖速度が落ちるが、破壊株の増殖速度は一定である」時には、その遺伝子は必須ではない(non-essential)とされます。

これは、これらの88の遺伝子破壊株が「evolvable(進化可能である)」ことを示しています。つまり、標的遺伝子が破壊されたことを別の遺伝的変化によって補い、増殖速度を回復してくる(進化する)という性質を持っているということです。

ではどんな進化が起きているのでしょうか?

具体的に増殖速度が回復した遺伝子破壊株を調べてみると、多くのもので染色体の構成が変化していました。一倍体だったはずなのに、二倍体や四倍体になっていたり、染色体の一部や全体が倍化しているもの(Aneuploidy)もありました。

また、核膜孔複合体やSRP複合体などを構成する一群のタンパク質をコードする遺伝子の破壊株では、複合体ごとに決まった染色体の倍化が起きていました。これは、これらの複合体の異常が、それぞれ決まったメカニズムにより補償されるということを示しています。

実際、倍加した染色体上のBRL1の発現量が増えることが、核膜孔複合体の破壊株の進化可能性を補償しているという実験結果を著者らは示しています。

最後に:必須遺伝子と非必須遺伝子の中間に、「進化可能な必須遺伝子」があることを示したのが、この論文の最も大きなインパクトと言えます。

実は、増殖の遅くなる非必須遺伝子の破壊株でも、そのダメージから回復するため進化が起きることが知られています。この論文はこれまで必須とされてきた遺伝子のなかにもそのようなものがあることを示しているのです。

でもそうなると、「(進化可能な)非必須遺伝子」と「(進化可能な)必須遺伝子」の違いは本質的にあるのか?と問いたくなります。結局は、必須・非必須は不連続ではなくて、連続的に(定量的に)捉えなければならない性質なのでしょう。

その中でも「壊したらまったく生えてこない」という遺伝子はあり、それを明確に同定したということにこの仕事の真の価値があるのかもしれません。

ちなみにこの研究、酵母の解析の徹底的な自動化に取り組んでいます。でなければ1000を超える株の解析はできなかったでしょう。一方で、テトラド解析は手動でやらなければならないはずです。論文には「7600のテトラドを分けた」と書いてあります。恐るべき数です。

酵母の学会では、制限時間内にどれだけテトラドを分けられるかを競う「テトラド選手権」が開かれることがあります(勝者を紹介する動画)。テトラドをさくさくと分けていく技能は酵母研究者の証なのです(・・・という私はテトラド解析が苦手なのですが)。

「赤色蛍光タンパク質 yEmRFP/mCherry が切れちゃう謎」が解決した

蛍光タンパク質は今の分子生物学実験にはなくてはならない重要なツールです。一番初めに見つかった蛍光タンパク質は下村脩先生が発見したクラゲの緑色蛍光タンパク質(GFP、図1)で、様々な研究に使われているのはご存知のことかと思います。

3D printed GFP

図1. 3DプリントしたGFP。本エントリーとは直接関係ないが、かわいい。

 

GFPにつづいて様々な特性を持った蛍光タンパク質が続々と発見・開発されています。いろいろなカラーの蛍光タンパク質はその一つですが、同じ蛍光タンパク質と言ってもだいぶ特性が違ったりするので、GFPと同じつもりで扱うと実験が思ったように行かないこともあったりします。例えば、「蛍光タンパク質によって細胞毒性が違うよ」、といった論文もあります。

私たちはGFPを酵母が死ぬほど発現させてみるといった実験を行っているのですが、赤色蛍光タンパク質(yEmRFP/mCherry*)を使っても同様な実験をしています。

*yEmRFPは、酵母のコドンに最適化したmCherryです。yEmRFPとmCherryはタンパク質としては同じものです。

さて、ある時、yEmRFPを大量発現している酵母の全タンパク質をLDS-PAGEで電気泳動してみました。すると、yEmRFP(26.7kDa)と同じサイズのタンパク質に加えて、サイズの小さなバンドが2本見えました(図2、紫色の矢印)。

Electrophoresis of yEmRFP/mCherry

図2. yEmRFPの電気泳動。切断された小さなバンド(紫色の矢印)が見える。

 

これらのサイズを足すとちょうどyEmRFPと同じになるので、下の2本のバンド切断されたyEmRFPではないかと思いました。酵母の研究者メーリングリストで問い合わせた所、yEmRFPが切れることをご存知で、だけどどこで切れるのか、それをどうしたら解決できるのかがわからないという研究者の方がいることがわかりました。

それなら自分たちで切れているところを特定してみよう、ということでタンパク質の質量分析の専門家である明治大学農学部の紀藤圭治先生にお願いして、上記のBand1とBand2のアミノ酸配列の解析を行っていただきました。

結果の詳細はここでは割愛しますが、図3の灰色の線の中のどこかで切れているということまではわかりました。しかし、場所をはっきりと特定することはできませんでした。

Structure of yEmRFP

図3. yEmRFPの1次構造。質量分析の結果、黒線のどこかで切れているということまではわかった。赤で囲まれた部分が発色団を形成するアミノ酸。

 

それが昨年2014年の4月頃。これ以上深入りするのは難しいと考え、このプロジェクト(?)は一端ペンディングとなりました。

それがまた動き出したのは、ひょんなきっかけからです。

今年2015年の11月にシンガポールで開かれた学会に参加した時に、知人に紹介していただいた早稲田バイオサイエンスシンガポール研究所(WABIOS)の北口哲也先生の研究室を訪ね、北口先生の研究についてお話いただきました。北口先生は蛍光タンパク質の専門家でした。

それで北口先生なら何かご存知かもしれないと思い、「yEmRFPが切れる謎」についてお尋ねしたわけです。北口先生も切れることはご存知でしたが、どこが切れるかはご存知ではありませんでした。

ただ、「(専門家なので)質量分析の結果を見ればどこか特定できるかもしれない」とおっしゃっていただきました。ということで、帰国して質量分析の結果をお送りし、どこが切れているかの予想をたてていただきました。

北口先生の予想は、「発色団の近くで切れている」というものでした。蛍光タンパク質は、図3の赤色で囲んだアミノ酸どうしが化学結合を起こして発色団を自律的に形成する特徴があります。ある種の蛍光タンパク質では、これに引き続いてアミノ酸内部のバックボーンが切れるらしいのです(図4)。yEmRFPの切断もきっとこれだろうということでした。さすが専門家、あっという間に場所を特定です。

Fluorophore

図4. 蛍光タンパク質の発色団の形成。アミノ酸のバックボーンが切れるものもある。Chudakov 2010より。

 

で、じゃあどうしたら切れなくなるか、ということなのですが、北口先生の最終的な助言は、「発色団のアミノ酸のYをGに変えれば、発色団が形成されなくなりきれなくなるだろう(1)。それでも切れたら別のところが切れている(2)。」というものでした。

もし1だったら:切れる謎は解けるから嬉しいんだけど、蛍光を持たなくなっちゃうのでRFPとしては使えないので悲しい。

もし2だったら:まだ謎は解けないけど、切断されないRFPを作れるかもしれないので嬉しい。

という事になります。ということで、YをGに変えた変異(Y72G)を作ってみました。図5は酵母細胞です。yEmRFPをたくさん作っている酵母(左から二番目)はピンク色なのですが、Y72Gを作っている酵母(一番右)では色がつかなくなっています。

yEmRFP mutants

図5. yEmRFPを発現している酵母。 左から、コントロール(yEmRFPを発現していない酵母)、yEmRFPを発現している酵母、Q71M変異(今回は関係ない)、Y72G変異を発現している酵母。

 

そして、ドキドキしながらタンパク質を電気泳動してみます。その結果は・・・。

yEmRFPとその変異体を大量に発現している酵母細胞の全タンパク質を解析した。Y72G変異では切断されたバンド(紫色矢印)が見えなくなっている。

図6. yEmRFP変異体の解析。yEmRFPとその変異体を大量に発現している酵母細胞の全タンパク質を解析した。Y72G変異では切断されたバンド(紫色矢印)が見えなくなっている。

 

切れなくなりました〜(図6のY72Gです)。

ということで、北口先生が考えたように発色団の近くで切れているということになりそうです。残念・・・だけどとにかく謎が解けたことは良かった。論文にする程の結末ではなかったということで、このブログのネタにさせていただきました。

ちなみに北口先生によると、「この発色団の近くでの切断では蛍光タンパク質の3D構造は崩れない(細胞内でタンパク質がバラバラになることはない)ので、蛍光タンパク質として利用する分にはたいてい問題ない」、とのことでした。

専門家に意見を伺うことは本当に大事、というエントリーでした。ご協力いただいた紀藤先生、北口先生どうもありがとうございました。

 

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余談ですが・・・私は以前別の目的でyEGFPの発色団の変異Y66Gを作ったことがあります。図2でも示しているように、yEGFPの切れたバントは全タンパク質の解析では見えないのですが、図7の紫矢印のようにウエスタンブロットでは切れたと思しきバンドが少し見えることがあります。これが、Y66G変異では見えなくなっています。yEGFPもわずかではありますが、発色団形成後にバックボーンが切れるのかもしれません。

yEGFP-Y66G変異のウエスタンブロット解析

図7. yEGFP-Y66G変異のウエスタンブロット解析。yEGFPも少しは切れているのかもしれない。

 

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20160120追記

この後もいろいろ調べてみたのですが、蛍光タンパク質(の変異体など)が発色団あたりで切れる現象はよく観察されているようです。また、「RFP(dsRed)はボイルしたらは発色団あたりで切れる」というのが初期の研究でわかっていたようです。ですので、RFPは in vivo(in yeast)では切れていなくて、SDS-PAGEで解析する時に切れているようです。

「実験を始める前に文献をしっかり調べろ」ということではあるのですが、科学研究が大きく広がっている現代ではなかなかすべてを調査することは難しい現実もあります。専門家の意見を聞いたり、実際に実験をしてみたりしながら過去の知見を自分たちの知識として蓄えていくという過程も必要かと思います(言い訳ではありますが)。

 

過剰発現実験の定量的側面

過剰発現実験の定量的側面

Quantitative nature of overexpression experiments.

Moriya H. Mol Biol Cell. 2015 Nov 5;26(22):3932-9. doi: 10.1091/mbc.E15-07-0512. PMID:26543202

 最近、MBoC(Molecular Biology of the Cell誌はこう略すらしい)に発表した私の論文です。MBoCのQuantitative biology特集号のperspectiveとして書かせていただきました。手前味噌ですみませんが紹介させていただきます。

この論文では、これまで定性的に捉えられがちだった過剰発現実験の定量的な側面を解説しています。というか、過剰発現実験というのは本質的には、「どれだけ過剰か」という定量的な実験なので、それを理解しておかないと結果の解釈を間違ってしまうよ、というメッセージを書きました。

また、これまでにいろいろ行われてきた過剰発現実験の結果をまとめて、過剰発現が細胞機能の障害を起こす「一般的なメカニズム」を4つ紹介しています。

過剰発現による細胞機能障害の4つの理由

過剰発現による細胞機能障害の4つの理由

Resource overload(リソース過負荷)、Stoichiometry imbalance(化学量不均衡)、Promiscuous interaction(乱雑な相互作用)、Pathway modulation(パスウェイ修飾)

基本的にはタンパク質の過剰発現が引き起こす細胞機能の障害は上の4つに分類されると考えています。他にあるようでしたら教えていただけると嬉しいです。

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ちなみにMBoCに初めて論文を掲載したのですが、「MBoCの著者になっておめでとう!」ということでTシャツが送られてきました。

埋め込み画像への固定リンク

MBoCのTシャツ

ロバストネスとは何か

書き物をしていて「ロバストネス」をちゃんと説明する必要があると感じたのですがスペースがなかったので、とりあえずブログにアップします。今後このボリュームをふくらませていくつもりです。ロバストネスについては守屋の個人的ページでも解説してあるのですが、少し古くなってきたのでもう少ししっかりと書いていきたいと思っています。

ロバストネスとは、様々な擾乱に抗って機能を維持しようとするシステムの特性のことを言う。ロバストネスは因子の複雑な相互作用の結果生じる特性、すなわちシステムレベルの特性である。高いロバストネスを実現することは、生命システムの構成原理の一つであると考えられている。ロバストネスは因子の複雑な相互作用の結果生じる特性、すなわちシステムレベルの特性である。近年、生命を構成する因子とその相互作用の詳細が明らかになるにつれ、生命現象をシステムレベルで解析することが可能になり、生命システムにおいて高いロバストネスを実現するメカニズムの理解が進み始めた。

 ロバストネスを調べる一般的な方法は、システム内のパラメータを変化させ、それがシステム全体の機能にどのような影響を与えるかという「ロバストネス解析(感度解析ともいう)」である。これをシステム内のあらゆるパラメータについて行うと、そのシステムのロバストネスの全体像が浮かび上がる。例えば、あるパラメータを多少変動させてもシステム全体の機能が破綻しない場合、システムはそのパラメータの変動に対してロバストネスが高く、あるパラメータをわずかに変動させた場合にシステム全体の機能が破綻する場合には、システムはそのパラメータの変動に対してロバストネスが低いと言える。なお、「ロバストネスが低い」ことは「脆弱である」ともいわれる。

 あるシステムのロバストネスの全体像が浮かび上がった際に、そのシステムのロバストネスが高い・低いかどうかは、他のシステムとの比較に頼るしかない。通常人工システムでは、システムが破綻しにくくなるように設計を改良していくはずなので、改良前のシステムと改良後のシステムを比較することで、ロバストネスが向上したか否かを議論することができる。

 生命システム場合は、改良前・改良後というものは存在しない。生命システムのロバストネスの比較は主に2つの方法によってなされる。一つは、数理モデルによる再構成過程での比較、もう一つは変異体を用いた比較である。

 生命現象の数理モデルの構築においては、因子の少ない数理モデルをまず構築し、さらに既存の因子・制御を盛り込んだより複雑な数理モデルへと改良していくことが一般的な道筋となっている。この改良の過程で数理モデルがパラメータ変動に対してよりロバストになっていった場合、生命システムはロバストネスが高くなるように設計されていると考えることができる。

 変異体を用いた比較の場合には、生命システムのパラメータ範囲を、野生型と変異型で調べることで明らかになる。この比較解析は、完成した数理モデルを用いて行うことも可能である。

 

ホルモンを利用した新しい遺伝子発現制御システム

酵母コロキアムに以前私が投稿した内容に改変・追記して載せています。

Fast-acting and nearly gratuitous induction of gene expression and protein depletion in Saccharomyces cerevisiae. McIsaac RS, Silverman SJ, McClean MN, Gibney PA, Macinskas J, Hickman MJ, Petti A, Botstein D. Mol Biol Cell. 2011 Sep 30. PMID: 21965290

David Botsteinのグループが2011年に発表した論文です。酵母で遺伝子の発現をON/OFFするのに最もよく使われるのがGAL promoterで、その次がMET promoterでしょうか?これらは確かにON/OFFがはっきりして反応も早いという評判なのですが、「栄養条件をかえなければならない」という最大のデメリットがあります。

今回発表されたのは、エストロゲンレセプターの核ー細胞質移行の制御をエストロゲン(β-setradiol)で制御するというシステムです。転写因子の構造が、GAL4DB-Estrogen receptor-VP16ADである事からGEVと呼ばれています。ホルモンを加えてわずか5分で転写活性化が始まるという「迅速な」システム、また、このGEV-エストロゲンによって、GAL遺伝子群を含むわずかな遺伝子しか影響を受けないとのことです。

GEVの良いところは、GAL1プロモーターという今までに非常によく使われてきたリソースがそのまま使えるという事です。このホルモンによる遺伝子発現制御システム、これから広まっていくのでしょうか?

気になるこのホルモンのお値段ですが、Sigma-Aldrichで調べると250mgで5,200円。論文によると10nMで毒性もなくうまく使えるという事で計算してみると、10nMの溶液1Lあたり・・・5銭!!ガラクトース(2%として1Lあたり約100円)よりずっと安い!? ただ先日の酵母の学会でも研究者間で話題になったのですが、これ女性ホルモンの誘導体なので、人体に悪影響があるかもしれません。そのうち男性の酵母研究者がみんな女性っぽくなったりして・・・。

 

以下は追記です。

ちなみにこの実験系はさらなる改良版が作られています。

Synthetic gene expression perturbation systems with rapid, tunable, single-gene specificity in yeast. McIsaac RS, Oakes BL, Wang X, Dummit KA, Botstein D, Noyes MB. Nucleic Acids Res. 2013 Feb 1;41(4):e57. doi: 10.1093/nar/gks1313. Epub 2012 Dec 28. PMID:23275543

こちらではさらに人工転写因子や結合配列の改良を行って、目的の遺伝子の発現以外にはまったく影響を与えないと謳っています。

実際、私もこの実験系を入手して使ってみました(論文に書いてあるとおりにはいかないということはよくあることですので)。すると確かに GALプロモーターと同じく、非誘導条件での発現は検出されないレベルで、誘導条件での発現はGALプロモーターの6倍程度あるという、かなり優れたシステムであることが確認できました。

この実験系の最大のデメリットは、人工転写因子を酵母に持たせなければならないことですね。色々な株で解析したい場合に、いちいち人工転写因子をゲノムに持たすのは少し厄介です。