原始遺伝子と遺伝子の新生

Proto-genes and de novo gene birth.

Carvunis AR, Rolland T, Wapinski I, Calderwood MA, Yildirim MA, Simonis N, Charloteaux B, Hidalgo CA, Barbette J, Santhanam B, Brar GA, Weissman JS, Regev A, Thierry-Mieg N, Cusick ME, Vidal M.

Nature. 2012 Jul 19;487(7407):370-4. doi: 10.1038/nature11184. PMID:22722833

2年前の論文ですが、最近読んで感銘をうけたので紹介します。

もっともよく分かっている生き物である、酵母(Saccharomyces cerevisiae)のゲノムには、約6000の遺伝子があるとされています。ここで言う遺伝子とは、酵母の中でちゃんと機能があるタンパク質をコードした領域(ORF)を指しています。

1996年に酵母のゲノムが決まった時に、まずは100アミノ酸以上のタンパク質をコードするORFを選定しました。100アミノ酸という大きさは、特に根拠がないのですが、そうしないとランダムに出てくるORFと区別できないからです。それでだいたい6000になりました(PMID:8849441)。

その後に、それらのORFがmRNAとして転写されるか、近縁の酵母に保存されているかというカテゴリーでORFが削ぎ落とされました。逆に100アミノ酸以下の小さなORFについては、この解析で「機能しているらしい」ということで新たに加えられたものもあります。同様に、酵母で働いている遺伝子を定義づける解析は、新しい技術が生まれる度に何度もくり返し行われてきました(PMID:17001629など)。

そういうわけで、今のデータベース上ではだいたい5800程度の機能的なORF(つまり遺伝子)があることになっています。私自身は、このような経緯できっちりと定義された5800の遺伝子というのをかなり強く信じていて、まだ見つかっていないORFはあってもそう多くはあるまいと思っていました。

また、機能的なORFとランダムに生じたORFはきっちりと分けられるものであると言う考えもありました。

この論文では、いままで誰も相手にしてこなかった(?)、S. cerevisiaeにしかない小さなORF(10アミノ酸以上)に注目しました。これらは、ランダムに生じるORFの可能性もあり、実際26万個以上もあります。

肝となるデータは、これらのORFについて、リボソームプロファイリングという方法で翻訳されているかどうかを詳細に調べたもので、実に1000以上のORFが翻訳されているという証拠を得ています。さらに、これらのORFが進化的な選択を受けている可能性も見出しました。

この他の情報学的なデータも合わせて、筆者らは、機能的なORF(遺伝子)とランダムに生じるORFの間は連続的で、そこに原始遺伝子(proto-gene)というものがあり、それが新しい遺伝子を次々と生み出している(de novo gene birth)という仮説を提唱しています。

「ゲノム上には、原始遺伝子がウジャウジャあって、それが常に遺伝子になる機会を伺っている」というイメージでしょうか。私の今までのゲノムについての考え方が大きく揺さぶられた論文でした。

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2 Comments

  1. Kito

    これは面白いですね。
    進化の芽、ということでしょうか。

    今原著が読めないのですが、
    種間の保存性からいつ頃生じて来たのか、
    既知のORFとの相同性はあるのか、
    酵母以外の生物でもあるのか、
    そもそもどれくらい発現しているのか、などなど。
    色々と興味が湧いて来ますね。

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  2. hisaom (Post author)

    Kitoさんは興味を持たれるのではないかと思っていました。

    ORF0とカテゴライズされたものは、既知のORFと相同性が見つかりません。あと、このようなORFはショウジョウバエやヒトでも大量にあるらしいです。

    タンパク質としての発現量が低いので検出が難しいのかもしれませんが、今後検出感度が上がるにつれて見えてくるだろう、このような小さなORFは分子生物学研究の1つのカテゴリーになる気がしています。

    Reply

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