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2018-12-212018-12-29

ミトコンドリアの進化に向けた酵母の細胞内共生体の作成

Engineering yeast endosymbionts as a step toward the evolution of mitochondria. Mehta AP, Supekova L, Chen JH, Pestonjamasp K, Webster P, Ko Y, Henderson SC, McDermott G, Supek F, Schultz PG. Proc Natl Acad Sci U S A. 2018 Nov 13;115(46):11796-11801. doi: 10.1073/pnas.1813143115. Epub 2018 Oct 29.PMID: 30373839

細胞内小器官として有名なミトコンドリアが、もともとは真核細胞の祖先細胞に潜り込んで共生を始めたバクテリアに由来するという「細胞内共生説」はとてもロマンがあります。これは「説」とはなっていますが、ミトコンドリアが持っているDNAやそこで使われているタンパク質を見る限り、ほぼ確かであると言っていいでしょう。

この論文では、「潜り込んで共生を始めたところ」を実験室で再現してやろうという、とても大胆な研究を行なっています。大胆ではありますが、共生を成立させるスキームはそう難しそうには思いません。大抵の人が思いつきそうなやり方です。

つまり、1)呼吸で使われているミトコンドリアを真核細胞から取り除き(すると酸素呼吸ができなくなる)、2)その代わりに酸素呼吸をしてATPを供給するバクテリアを細胞にいれてやり、3)そのバクテリア自身は宿主の細胞から増殖に必要な栄養素を供給される、という状態を成立させれば良い。ですがこのためにはいくつかのトリックをそれぞれの細胞に仕込んでやる必要があります。このトリックを成立させるために著者らが選んだのは、出芽酵母(Saccharomyces cereviaie)と大腸菌(Escherichia coli)でした。

1に関して。大抵の場合、ミトコンドリアの機能を失わせると細胞は死んでしまいます。ところが、出芽酵母では、ミトコンドリアの呼吸機能が欠損しても(ρ0株)、発酵によって生きることができます。発酵で大量のATPを産生できるためでしょう。ただこの株、発酵に使えない炭素源しかない培地(グリセロール培地)では増殖することができません。ですから、培地の切り替えでミトコンドリアの必要性を切り替えることができるのです。

2に関して。当然ながら大腸菌は自分で作ったATPは自分で使いたいので、細胞の外(この場合には酵母細胞の中)に放出してくれません。そこで、筆者らは細胞内に住むバクテリアがもつADPとATPの交換反応をするタンパク質(ADP/ATP translocase)を大腸菌に作らせました。

さらに3に関して。この大腸菌はビタミンB1(チアミン)の合成酵素に変異をもち自分ではチアミンが作れないため酵母に供給してもらう必要がある、という状況にしました。

共生関係を成立させるための条件は整った、ということで酵母と大腸菌を融合させます。以前の研究で、酵母細胞に外部からミトコンドリアを導入する「polyethylene glycol (PEG)-induced fusion」という方法が確立されており、これを使って二つの細胞をフュージョンしました。

そしてこのフュージョン細胞をグリセロール培地に撒いてみた。しばらくしたら増殖がすごく遅いけど何かコロニーが出てきた!で、調べてみたら・・・全部大腸菌だった。失敗。ミトコンドリアの機能欠失の方法を少し改良した(ρ0 + cox2-60)けどやっぱりだめ。

ここで著者らは、「酵母細胞の中に入った大腸菌は、酵母に食われてるんじゃないか」と考えました(実際にはそうは書いてありませんが)。

細胞内に入ったバクテリアは多くの場合、リソソーム(酵母では液胞)という消化器官に取り込まれて消化されてしまいます。細胞内に侵入する病原性のバクテリアでは、これを避けるために「SNARE様タンパク質」という、細胞内輸送に使われるタンパク質を真似たタンパク質を細胞の表面に出して、リソソームに取り込まれないようにしている。

そこで、このSNARE様タンパク質を大腸菌で作らせてみた。まず1種類SNAREを作らせてフュージョンさせて培地に蒔いて・・・生えてきたのは大腸菌ばっかり! くじけず別の種類のSNAREも大腸菌に作らせてフュージョンさせて培地に蒔いて・・・少し酵母が生えてきた! 結局3種類SNAREを入れると割とたくさんの酵母が生えくるようになった! というわけでようやく共生らしきものが成立しました。この後は酵母の中にちゃんと大腸菌がいるかを顕微鏡観察で確かめて、めでたしめでたし。

ただ、この共生はしばらく培養を続けていると失われてしまうようです。酵母と大腸菌が増えるタイミングがそろっていないとか、酵母が分裂する際に大腸菌がちゃんと分配されない、といったことも問題のようです。そういうことはさておき、今後これをどんどん改良してもっと安定な共生体が作れて、真核細胞がどんな風に作られてきたのかわかってくる、という話に展開してくのでしょう。その第一歩ということになりそうです。

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