以前このブログで、「酵母で死ぬほどGFPを発現してみました。」という実験を紹介しました。
死ぬほどGFP(緑色蛍光タンパク質)を発現した酵母(GFP酵母と呼ぶことにします)のコロニーは肉眼でも蛍光緑に見えます。培養液も緑色に濁ります。蛍光顕微鏡で観察したら眩しくてしょうがないほどです。全タンパク質を泳動したらぶっといバンドで見えます。
このブログのエントリーを見つけられて、GFP酵母を使ってみたいと連絡をくださる研究者の方々が時々いらっしゃいます。その中で弘前大学の岩井先生のご依頼は、私の想像していないものでした。
岩井先生は原生生物・繊毛虫のゾウリムシの仲間でクロレラが共生しているミドリゾウリムシ(Paramecium bursaria)を研究されていて、酵母をエサにして培養する方法を確立されたそうです。さらに、ミドリゾウリムシがどのようにエサを食べ消化していくのかという様子を観察したいと考えていらして、ビカビカに光っているGFP酵母が使えるのではないかと考えられたそうです。
そんなオモレエ実験に私たちが作った酵母が役に立つならと、早速GFP酵母をお送りしました。
・・・それから5年。遂にこの研究が論文となりました。
ミドリゾウリムシに共生しているクロレラはクロロフィルを持っていて赤色の自家蛍光があり、緑蛍光のGFP酵母と区別できます(下図)。
この様子をずっと観察すれば、ミドリゾウリムシが時間あたりに何個の酵母を食べて、それらが細胞内でどれくらいの時間で消化されるかを調べることができます。
さらに、ミドリゾウリムシの増殖状態や、共生体のある/なしでのエサの取り込みと消化にどのような関係があるのかを調べることもできます。実験の結果、共生体のがない方が酵母をたくさん取り込めるが、消化速度は共生体のある/なしでほとんど変わらないということがわかりました。
共生体がいることで光合成によるエネルギーを得ることができる反面、外部からのエサの取り込みには不利に働くという「トレードオフ」があるということのようです。
なお、このGFP酵母、私たちは「光るから楽しい」という理由で作ったわけではなく、細胞内のリソース分配を真面目に研究するために作ったものです。これはこれで細胞について色々面白いことを教えてくれるのですが、それとはまったく別に、ミドリゾウリムシに喰われるという形でも科学に貢献してくれるとは。
「繊毛虫を含む原生生物には細菌を補食するものが多いですが、真核生物をもっぱら補食するものもいる(はずな)ので、私としては、そのようなケースで今後使われるとうれしいです。」(岩井先生談)とのことで、今後この方法が原生生物の摂食の研究に使われる一般的な方法になることを期待したいです。