集団レベルと単一細胞レベルにおける、モデル予測による遺伝子発現の長期的な制御

Long-term model predictive control of gene expression at the population and single-cell levels.

Uhlendorf J, Miermont A, Delaveau T, Charvin G, Fages F, Bottani S, Batt G, Hersen P. Proc Natl Acad Sci U S A. 2012 Aug 28;109(35):14271-6. Epub 2012 Aug 14. PMID: 22893687

 

出芽酵母の浸透圧応答は、HOG-pathwayと呼ばれる信号伝達経路によって制御されています。信号伝達経路のターゲットは、Hog1と呼ばれるプロテインキナーゼで、これがグリセロール合成酵素(Gpd1)の活性化やグリセロール輸送体(Fps1)の活性の抑制などの短期的な応答と、STL1(別のグリセロール輸送体の遺伝子)やGPD1などの遺伝子の長期的な転写誘導を引き起こします。

通常、浸透圧ストレスを書けた場合には、短期的な応答によるフィードバックがあることから、Hog1の活性は一過的な上昇を示し、従ってSTL1等の遺伝子も一過的に誘導されるのみです。

この論文でやったことは、短期的な応答によるフィードバックをうまく回避しながらSTL1の発現を長期間持続させることができるように、外からのストレス刺激を制御するようなシステムを構築した、ということです。

具体的にやったことは以下のようなことです。

マイクロ流路を用いて、浸透圧ストレス(高濃度のソルビトール溶液により誘導します)を自在に制御できるようにしておき、STL1遺伝子の発現を蛍光蛋白質でモニターできるようにしておきます。

次に、ストレスをパルス刺激として与えます。同じ強さの刺激を持続時間(3秒や6秒)を変えて与え、またこの刺激を時間間隔を空けて与えます。

先に述べたように、持続的にストレスを与えるとSTL1の発現は一過的にあがり、その後下がってしまいます。

どれくらいの持続時間で、どのくらいの間隔でストレスを与えれば、この一過性をおこさずに、すなわち「Hog1キナーゼを定期的に活性化し、転写誘導を持続的におこさせることができるか」、を上記のトライアル&エラーで探しつつ、このシステムを適切に制御するための数理モデルを作成していきます。

最終的には、思う通りの転写のアウトプット(持続的な発現や、振動的な発現など)を得るためのシステムが完成した、という訳です。

多細胞レベルでも単細胞レベルでも、「ストレス→細胞の応答の観察→モデルをもちいたインプットの制御」により、内部の短期的なフィードバックの影響を乗り越えて、目的のアウトプットを出せるようになりました。

これ、いわゆる工学のフィードバック制御そのものの考え方で、細胞を制御したと言う意味でとても面白い研究です。つまり制御対象の内部システムはよくわからないが、そのシステムを制御するために、インプットーアプトプットの関係から外部にモデルを作って、「外から細胞内部の状態を制御する」という考えですね。

 

 

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